元書店員で本屋さん好きとしては見ておきたいと思った映画。
でもこれ、邦題にうまくミスリードされた感アリですわ。。。
原題は”IL DIRITTO ALLA FELICITÀ”
Google翻訳にかけると「幸福への権利」。このまんまのタイトルだったらまず観てなかっただろうから、邦題にまんまと乗せられた1人としてはうまい邦題だったと言わざるを得ないが、個人的には「これといって大きな事件が起こるわけではない日常描写系」は好きなジャンルだったので結果オーライではあった。
端的に言うと、この映画はBS日テレでやってる「小さな村の物語イタリア」、イタリアの小さな村で暮らす人々の日常を映し出すドキュメンタリー紀行番組。この番組が好きな人はストレスなく観れると思うし、テーマ曲がいつ流れてきても違和感がないような石畳と石造りの町並みが美しい。
舞台はイタリア。
ふくらはぎあたりのやや内陸にある小さな町チヴィテッラ・デル・トロント。邦題が「丘の上の本屋さん」となっているのは、本屋さんが丘の上にあるというより町全体が丘の上にあるからかも。美しいこの町で本屋さんを営んでいるリベロと、店にやってくる町の人々との交流を描いた物語。そのうちの1人、移民の子・エシエンという少年との交流がストーリーの軸となり、原題が示すエンディングへと導いていく。
この映画にはものすごい欠点がある。映画をたくさん見てる映画通ではないから、もしかしたらそういう映画もあるのかもしれないけど、今までこんな映画は観たことない。
「エキストラさんたちの動きが不自然で気が散る」。
リベロの本屋さんには毎日のように変わった客や顔見知りたちが出入りするのに、映画に登場する人たち以外で店の前の通りを行き来する人がほぼいない。小さな町だから、それ自体に不自然さはない。本屋さんの隣はカフェになっていて、そこの店員とは日に何度も顔を合わす間柄。店員はしょっちゅう本屋さんで油を売っている。なので、観ている側としては最初「小さい町やしカフェも客が来なくて暇なんやな」と思いながら見ていた。ところが、カフェのシーンになるとなぜかどのシーンでも席がほぼ満席。通りには人が全然歩いていないのに、カフェにだけ人がたくさん集まってる違和感と、おそらく地元の素人さんたちによるエキストラたちの「カフェでお茶してる演技をしないと!」の張り切りが無駄に動きをぎこちなくさせていて気が散る。
エシエンがリベロから借りてきた本を読む公園。
様々な人たちが思い思いに過ごしているのだが、まず公園の大きさに対する人口密度がおかしい。それほど大きくない公園に人が不自然に多い。町を歩いている人は全然見かけないのに、カフェの客たち同様、ここの人たちどこから来たん?と思うくらいワラワラといるし、ここでもエキストラさんたちが無駄に張り切りすぎていて、犬の散歩をしてる時や子供と公園で遊んでいる時にそんな動きせんやろ…な不自然な動きをするのでここもまたすごく気が散る。横切っていくだけのジョギングをしている2人組などは、大きくない公園に人が何人もいるのでぶつからないように肩をピッタリとくっつけて走っていて、「二人三脚かな?」と。エキストラの演技が下手すぎて悪目立ちする映画なんてある?
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- エシエンから「変わった名前」と言われる
- アメリカへの移住を決意した女性の古い日記を大事に読んでる
- まだ幼いエシエンへの唐突かつ重すぎる最後のプレゼント
- イタリア人は休日になると家族が集まるイメージなのにリベロには身寄りがいない
- クレジットでもリベロの名字が出てこない
といったことから、リベロ自身もエシエンと同じ移民の子だったのではないだろうかと推測する。幼い頃に親に連れられてイタリアに移住してきたか、イタリアに移住してきた親が異国でリベロを産んだか。リベロというイタリア語の名前は息子にはイタリアで生きて自由を謳歌してほしいという両親の願いか、何かの迫害によって逃れてきた一家の希望を託したのかもしれない。だがイタリアにも人種差別はある。リベロ自身も小さい頃に差別に遭って理不尽な思いをしてきたのだとしたら、そんなリベロ少年を救ったのが本であり、知識であり、学問だったのではないだろうか。店にやってくる顔なじみは皆、リベロより若い。リベロの子供時代を知る人は誰もいないのだ。クレジットでどの役名にも名字が出なかったことも妙に気になる。リベロのルーツがわかってしまうから?そもそも名字でルーツを感じさせることを製作側がしたくなかった?
そんなことを思ったり。
この映画はイタリアとUNICEFの共同製作。CMなどで黒柳徹子さんがPRに一役買っているのもUNICEFつながり。リベロがエシエンに紹介した本は、アンクル・トムの小屋のように人種差別がはっきりと描かれているものもあり、「周りとは違う自分」や「自分とは違う周り」がうっすらとベースになっている作品だったりする。
収集家として登場する役者さんはプロフィールによるとユダヤ系のようだが、役柄でかぶっている帽子はイスラムが着用する帽子に似ているよう気がする。さりげなくマイノリティを登場させる演出か。
他の本はこちら。